旅の空、雲のゆくえを、ながむれば、故郷の山、恋しくぞ思ふ。
旅先の空で、
流れてゆく雲の行く末を、見つめていると、
故郷の山が、
ひどく恋しく思い出されます。

旅路の空の下、ふと見上げれば、果てしなく流れてゆく雲の姿がございます。その雲のたゆたう先に、心は遠く故郷へと馳せ、懐かしい山の稜線が目に浮かんでまいります。旅の寂しさ、人の世の移ろいやすさを感じながら、故郷の山々への尽きせぬ恋しさが、静かに、そして深く胸に迫ってくるのでございます。この一首には、遠い地にあっても、決して色褪せることのない心の故郷への深い情愛が、しみじみと込められているように感じられます。

この「旅の空」という一首は、民俗学者であり歌人でもあった折口信夫先生の、旅路における静かなる心情を歌い上げたものでございます。先生は、柳田國男先生に師事し、日本各地を巡りながら、古代の信仰や民俗の根源を探求されました。その旅は、単なる移動ではなく、常に自己の内面と向き合い、思索を深める場であったことと存じます。
「旅の空」という言葉には、地理的な距離だけでなく、心の奥底に宿る孤独や、人生の旅路そのものが暗示されているようにも感じられます。流れてゆく雲は、定まらぬ己の境遇、あるいは時の流れの象徴であり、それを見つめることで、より一層、揺るぎない故郷の山への思慕が募るのでしょう。
この歌は、平易な言葉で紡がれておりますが、その底には、故郷を離れて学問に打ち込む先生の、深い郷愁と、遠い過去への憧れが静かに横たわっているように思われます。故郷の山は、単なる風景ではなく、先生の精神的な拠り所であり、失われゆく日本の原風景そのものへの、切ないほどの愛着が込められているのではないでしょうか。短いながらも、読む者の心に深く染み入る、静謐な一首でございます。