水底の石の白さよ
月影のさしこむ川の深き静けさ
水底にある石の白さよ
月明かりが差し込む川の、その深い静けさよ

この歌は、深い夜の川辺に佇み、静かに水面を見つめる作者の眼差しが、そのまま言葉になったかのような一首でございますね。
月光が深く澄んだ川に差し込み、その光が届く水底には、白く輝く石々が見えている。そして、その光景全体を包み込むのは、ただひたすらに深い、静けさ。まるでこの世の喧騒から隔絶された、神聖な空間がそこにあるかのようです。
「~さよ」という詠嘆の助詞が、この情景に対する作者の感動や、しみじみとした感慨を、静かに、しかし確かに伝えてまいります。それは単なる風景の描写に留まらず、見る者の心に深い安らぎと、ある種の畏敬の念を呼び起こすような、魂の風景でございますね。

斎藤茂吉は、精神科医としての鋭い観察眼と、歌人としての繊細な感受性を併せ持った方でした。彼の短歌は、自然をありのままに捉え、そこに自身の内面を重ね合わせる「写生」の精神を重んじております。
この『水底の』という歌も、まさにその精神が息づいている作品でございます。月光が差し込む川という具体的な情景は、単なる物理的な描写を超え、作者の心象風景、あるいは人生そのものの深淵を象徴しているかのようにも思われます。
茂吉の人生は、愛する者の死や、時代が孕む様々な苦悩と隣り合わせでした。そうした中で、彼は自然の中に普遍的な真理や、魂の救いを見出そうとしたのではないでしょうか。月光が深き川の底まで届き、そこに横たわる石の白さを際立たせる情景は、人生の深奥に光が差し込み、見えなかった真実や、心の奥底に秘められた清らかさを見出す瞬間を暗示しているのかもしれません。
深い静けさは、外界の音なき世界であると同時に、心の奥深くにある、揺るぎない平穏をも表しているように感じられます。この歌は、私たちに、忙しない日常の中で忘れがちな、内なる静寂と、自然の持つ荘厳な美しさに目を向けることの大切さを、静かに、そして深く語りかけてくるのでございます。